右膝関節手術後の複合性局所疼痛症候群(CRPS)への優れた治療効果
○来院までの経緯 (76歳 女性)
平成17年頃より、右変形性膝関節症に煩わされてきた。関節炎や関節水腫を繰り返すたびに、局所のいわゆる「水抜き」およびステロイドの注入などにて対応してきたが、もはや保存的治療の限界を迎え、平成19年の夏に右変形性膝関節症の人工関節置換手術を行った。
しかし、人工関節置換手術後、右膝の症状改善も束の間、手術してから約一ヶ月後に再び右膝の疼痛に襲われ始めた。その頑固な強い右膝の疼痛が続くため、再度1ヵ月間の入院加療を余儀なくされた。入院中計10回の右膝関節に対しての関節内薬物注射療法および3回ほどの硬膜外ブロック注射を試みたが、満足のいくような持続効果は得られなかった。特に硬膜外ブロック注射後はそのリバウンドにより、むしろしばらく疼痛がさらに増強する傾向があった。
退院後、色々な内服薬による保存的治療を試し続けてみたが、効果の際だったものはなかった。逆に今年に入ってからは、右膝の激痛の発作が一層ひどくなり、まして下腿部のむくみ、および足背部から足趾までの痺れ感も徐々に覚えるようになった。
そこで、某大学病院で試しに遠絡療法が施されたところ、高い除痛効果が得られたため、治療継続の目的にて平成20年1月に当院を紹介受診された。
○治療経過
初診時の症状は、右膝関節を中心にズキズキと痛む極めて不快な鋭い痛みと、その周辺部の温痛覚の過敏や異常が診られ、またその痛みは執拗で、運動や機械刺激などによりさらに増幅した。加えて、右膝関節の可動域の制限および腫脹、皮膚の色調や皮膚温の変化が下肢全体にまで拡大していたことなどから、前医の診断のごとく極めて典型的な右膝関節の手術後に併発した、右下肢複合性疼痛症候群T(CRPS TypeT)と考えられた。
早速、右膝関節の機能と最も関与の深い三本の経絡を選択し、遠絡療法で治療を行ったところ、確かに治療中においては、右膝関節がかえってさらに痛くなったり痺れたりしたが、治療後は迅速にこれらの症状は収束に向かっていった。
二日後の再診の際には、いつもより右足全体の腫れや痺れ感が軽減しているとのことであった。
三回目の受診時には、患者さんはこれまでのような右膝の激痛の発作はほとんどなくなったと喜んでおられた。
五回目以降は右膝関節の動きが楽になったと実感され、これまでのように何回も激痛などのために歩行中に転倒したり、もがいたりすることもなくなったと話された。但し、階段の昇降の際には、どうしても余分な重力がかかるため、まだまだ右足の痛みを強く覚えており、これからももう少し治療を頑張って行こうとお互い励ましあった矢先に、急性肺炎のために入院し、約一ヶ月間治療中断となった。
その間、右膝関節の症状は再び悪化の一途を辿ったが、この出来事をきっかけに患者様の遠絡治療に対する確信はむしろ日に日に増す一方となり、ご本人の体調が戻った4月中旬より遠絡治療での治療を再開した。
痛みから完全に解放されるまでの道のりはまだ長いかもしれないが、一点の曇りもなく、その一歩また一歩を大事に、そして丁寧に踏み出している次第である。現在患部の痛みの強さは常に当初の半分以下に抑えられているという。
○特記事項
最も難治性の痛みの一疾患として数えられる複合性局所疼痛症候群(CRPS)であるが、その病態が複雑を極めるだけに、現代医学の中でもなかなかしかるべき治療方法を持たないのが現状である。
まさしく、「医者泣かせ」の異名を馳せた厄介な疾患とも言えよう。しかしその一方、外傷や手術のみならず、多くの侵襲性疾患をきっかけに発症する本疾患の潜在有病率は決して少なくないと言われている。本症例のような人工関節置換術を行った後に起きた膝関節のCRPSは、東洋の経絡学的に考えた場合は、イーコル生来膝関節を絡っている計六本の経絡の損傷、離断を意味するものである。
当然ながら、経絡全体の流れは常に膝関節部において乱れたり、詰まるなどの支障を来たす。そこで遠絡治療の施術により、もう一度経絡の流通路の再構築を図ることにより、痛みや痺れなどの症状の改善に繋がると期待されるものである。