「健康産業流通新聞」掲載記事、代替医療の現場から

〜生体の流れの2ポイントを押して痛みを消す遠絡療法(柯尚志氏にインタビュー)

「からだ情報−すこるぶ」掲載記事、ドクターレポート/補完・代替医療の最前線から Vol.19 〜自律神経〜 全身の調整役として働く神経のネットワーク

ポピュラーでありながら現代西洋医学で改善することが難しい症状の代表は"痛み"ではないだろうか。現在、痛みの治療というと、整形外科での手術やペインクリニックでのブロック療法、あるいはマッサージや鍼灸などの東洋医学系治療を受けるのが一般的だろう。しかし、どの治療法も今ひとつ決め手に欠けるようだ。ところがペレス・銀座クリニックの柯 尚志院長が開発した遠絡療法は2、3分でほとんどの人の痛みを70%消すという。痛みに悩む人々にとって画期的治療法といえる遠絡療法とはどういうものなのか柯氏に伺った。

柯 尚志(こう・しょうし)

柯 尚志(こう・しょうし)
昭和23年台湾生まれ。鹿児島大学医学部卒業後、九州大学病院麻酔科、国立九州がんセンター放射線科を経て開業。その後、上海中医薬大学国際鍼灸科に学び、痛み治療の研究に取り組む。

著書に『消痛革命』(土屋書店)

■遠絡療法には明確な理論がある

─名称から想像するに、遠絡療法は東洋医学の一つと思ってよいのでしょうか。

 東洋医学をベースにしていますが、全く同じではありません。また、西洋医学でもありません。私自身は、遠絡療法は"日本型医学"と思っています。なぜならば、今の東洋医学は理論体系がほとんどなく、応用がききませんし、西洋医学は身体を細かい部位に分けて断片的に治療しようとします。東洋医学と西洋医学の両方を学び、両医学の限界も良さも知っている私は新たな治療理論の必要性を感じました。そして出来上がったのが遠絡療法です。

──遠絡療法の特徴を教えてください。

 大きく5つの特徴があります。第1は今申し上げた明確な治療理論があるということです。では、なぜ遠絡療法に治療理論があるのかということですが、それは遠絡療法にたどりつくまでの経緯と深く関係があります。私は福岡で開業していたとき、腰や膝の痛みを訴える患者さんにブロック注射を行っていました。

──ブロック注射は神経伝達路に麻酔剤を注入し痛みの伝達を止めようというものですね。

 そうです。ブロック注射は痛み治療の原因療法といわれていますが、痛みを除去するには物足りない部分があると思っています。痛みを取るよい治療法はないかと探したところ、鍼灸治療の効果が高いことがわかり、鍼灸を勉強することを決意しました。同じ勉強をするなら一流のところで学びたいと思い、上海中医薬大学に研修生として入りました。有名な教授が首の痛みを訴える患者さんに十数本の鍼を打ちましが、痛みは消えませんでした。2人目の患者さんは腰痛でした。教授はこの患者さんにも、腰から足にかけて十数本の鍼を打ったところ、今度の患者さんは、痛みがほとんど消えました。そこで、私は教授に、どうして十数本も鍼を打たないといけないのか、片側の腰が痛いのになぜ両足に鍼を打つのか、鍼を打つ順番は決まっているのかと次々に質問しました。ところが教授から返ってきた言葉は、「私のやった通りにすればいい」。これは西洋医学を学んだ私には納得しかねる回答でした。

──西洋医学の医師たちにも通じる理論の必要性を感じたのですね。

 そのときはまだ自分で理論を構築できるとも、また出そうとも思っていませんでした。きっかけとなったのは、同じ研修時代に中山医院という病院の著名な先生を訪ねたときの出来事です。その先生は2、3本しか鍼を打たないのに、ほとんどの痛みが消えるのです。先生がある肩こりの患者さんの足に鍼を1本打つと、患者さんは「痛い!」と叫びました。私は「どこが痛いですか」と患者さんに尋ねました。その患者さんは針を打ったところではなく、「"肩"が引っ張られるように痛い」と答えるのです。しかも、その痛みは間もなく消えました。それを見て、ひょっとしたら鍼1本で痛みは消えるのはないかと考えたのです。それからというものは効果のあった鍼の位置を克明に記録し、日本に帰ってからは患者さんに実際に鍼を打ち、効果の程度を調べました。多くのデータが集まってくるうちに、この病態だったらどの箇所に、どういうふうに打ったらいいかがわかってきました。

──どのくらいの臨床データを集めたのですか。

 7,500症例以上ありました。私は論文に発表したいと思いましたが、それにはきちんとした理論が必要です。しかし、当時はまだどうして一本鍼が効いているのかを理論づけて説明することはできませんでした。ある日、放映されていたNHKの「シルクロード」という番組を見ていた私はハッとしました。「専門書を読みあさるのではなく、鍼のルーツを探さないといけないのではないか」と気づいたのです。中医学の古典である「易経」を読み始めると、そこにはきちんと理論が書かれていたのです。その理論を自分の臨床データと合致する部分と照らし合わせながら、自分なりの理論を打ち立てることに成功したのです。

 

■身体には12本の生体の流れがある

──その理論とはどういうものでしょうか。

 専門的になりすぎるので詳細は省きますが、一つには、痛みと一言でいっても、シャープな痛み、重い痛み、しびれ感があり、それらの症状は特定の3つの知覚神経と、「流速」「流量」「圧力」と関係があり、それぞれの病態に応じた治療をやっていくというものです。また、遠絡療法の理論はこれからお話しする2番目から4番目の特徴とも深い関わりがあります。

──では、第2の特徴について教えてください。

 脈診の定量化です。東洋医学では脈診で虚証や実証を決めていきますが、虚や実といっても各自が受け取るイメージが違ってきます。そこで、遠絡療法では脈診を量的表現の観点から再検討しました。例えば、肝機能が低下して腹水症状が出たとき、東洋医学では、肝が虚で、胆に実の症状である腹水が発生するという説明をします。また、腎機能の低下で浮腫が出てきた場合、腎虚によって膀胱が実の状態になり、浮腫が起こるといいます。しかし、どうして正常な胆や膀胱に実症状が出てくるのでしょうか。遠絡療法では、それを鏡面反射によって説明します。つまり、Aという虚の症状は鏡面反射によって同じライン上にあるBという実の症状が現れるということです。このラインについては4番目の特徴のところでお話しします。

──B症状を改善するには、Aを治さなくてはならないということですね。

 その通りです。そして3番目の特徴は陰陽五行を再構築したという点です。火・水・木・金・土の五行説は東洋医学の基本的な考え方です。五行説では、水は木の成長を助け、木は火を強くするような関係を「親子関係」と呼びます。反対に、どちらかが一方に強く、相手をやっつける関係が「相克関係」です。例えば、水は火を消すので、水が火より強く相克関係となります。これが従来の陰陽五行ですが、私たちはこれを発展させ、新しい「相生関係」を構築しました。

──相生関係とは何でしょうか?

 父親と母親がいて子が生まれるように、水だけでは木の成長はあり得ません。必ず土という存在が必要です。したがって、遠絡療法では、必ず2点で治療していきます。しかもその2点はバラバラに存在するのではなく、連接(繋ぎ)の経絡上にあります。この連接経絡の体系化が4番目の特徴です。

 

注射も鍼も使わない遠絡療法

──連接経絡は東洋医学でいう十二経絡と同じと考えていいですか。

 概念は同じですが、東洋医学では経絡を気血の流れと考えるのに対し、遠絡療法では、血液、リンパ、神経、ホルモン、水、空気、栄養素、分泌物など体内に満たされているものすべてを指し、私は「生体の流れ」と呼んでいます。痛みやしびれは生体の流れに何らかの支障が生じて、流れが滞ったり、止まったりした結果と考えています。この流れをスムーズに戻せば、痛みやしびれは解消されます。

──連接経絡のラインそのものは東洋医学の経絡と一致しますか。

 従来の経絡に私なりの修正を加えて、生体の流れのラインを見出しました。遠絡療法は、このライン上の特定の2点を押すことで痛みを取ります。

──ラインは何本あるのでしょうか。

 手の表側に3本、裏側に3本、足にも同様に表側3本、裏側3本合計12本あります。そのほか、治療では使いませんが、身体の前側中心に1本、後ろ側中心に1本あります。

──遠絡療法で使うのは手足のラインだけですか。

 そうです。脳や脊髄、内臓といった中枢部に対して、指令を出すのが手足だからです。コンピュータに例えるなら、手足はキーボードです。キーボードにはキーがついていますが、これを私たちはポイントと呼び、1ラインに1個ずつのCポイント(コントロールポイント)と、一つのラインに九つずつのFポイント(ファンクションポイント)、即ち全部で12のCポイントと108のFポイントがあります。

──ポイントはツボと考えてよいですか。

 遠絡療法のポイントは数多くの臨床の結果、見つけ出したものであり、従来のツボの位置とは異なります。

──CポイントとFポイントの違いは?

 Cポイントは高速道路でいえばジャンクションのような場所です。Cポイントを先に押し、痛い箇所の関連のあるラインと連結させます。そして、Fポイントを押して生体の流れをスムーズにさせます。この生体の流れの調整は季節や時間ととても深い関係があります。例えば、朝来た患者さんと夜来た患者さんでは、同じ箇所の痛みでも治療の効果に差があります。ラインに関しても、頸が痛い場合、頸が関係しているラインが春から夏に一番開いているラインとすれば、痛みの症状も強く、そのラインを使って症状を取るのは難しくなるので、別のラインを使います。そのときに先ほど述べた五行の親子関係や相克関係、相生関係の考え方が必要になってくるのです。

──ポイントを押すのは手ですか?

 患者さんの症状に合わせて指で押したり、押し棒やマイナスイオン器具、レーザー治療器具を使います。押す時間は2分程度です。患者さんには、「痛いところに触らない、注射は打たない、薬は使わない、鍼は打たない治療法です」とお話ししています。

 

■記号表記を用いて世界普及を目指す

──5番目の特徴は何でしょうか?

 私は遠絡療法を世界中に広め、この世から痛みをなくしたいと思っています。そのために、どこの国の人にも理解できるように記号表記を用いることにしました。右(right)手(Te)の表側のラインがrTy、裏側がrTx、左(left)足(Ashi)裏側lAx、表側lAyという具合です。

──先生のもとで遠絡療法を学んだ先生方はどのくらいいらっしゃるのですか。

 国内で約160名、台湾に70名ほどの方がいます。その中のある先生から先日、こんな連絡をいただきました。剣道の練習中に竹刀で右肘を強打し、難治性の病気の反射性交感神経性ジストロフィーと診断された中学生に2回の治療で痛みと痺れを消失させ、その中学生のお母さんから涙を流してお礼を言われたそうです。そういうお話を聞くと、遠絡療法を確立するまでのさまざまな苦労も決して無駄ではなかったと思います。